前回のエントリーで
●大学のTLOに国の予算をつけて、開発部門で切られた派遣の人達をバックエンド込みで雇う。
という提案を行った。
「科学技術立国」の土台作り。まさに、未来につながる「公共事業」だ。
詳細は前回のエントリーを参照のこと。
さて、その際、
日本の大学関連の米国特許の取得状況が心もとないという話をした。
今回のエントリーでは、その部分に焦点をあてたい。
調査期間は1980年から2002年までの23年間。
まずは、日本の大学。
件数の多い順に主要大学をリストアップする。
1:大阪大学 52件(内27件は、財団法人、阪大微生物研究会所有。)
2:東京工業大学 49件
3:東京大学 45件
4:東北大学 36件
5:名古屋大学 34件
6:京都大学 23件
7:広島大学 22件
8:九州大学 19件
上記の国立大学の合計件数は280件となる。
特許の中で目を引くものを見ていきたいと思う。
●大阪大学:
Number(Issue)4,464,578( August 7, 1984 )
Title:Wave energy converter.
波力発電に関するもののようだ。
財団法人、阪大微生物研究会所有のものを見ると、
抗原たんぱく質やDNA関連の特許が見られる。Stabilized live vaccineのよう
なワクチン関係の特許も。
●東京大学
超伝導関連特許が多いようで目を引く。
特に「超電導共役光伝導の基本物質Cusub2 Oを有する超電導オプトエレクトロニク素子」というような、光関連デバイスと関係したものが多いようだ。
Number(Issue):5,939,632( August 17, 1999 )
Title:Micromechanical accelerometer.
というものがあり、MEMS応用の加速度計だろうか。ケンブリッジ大学および松下電器との共有特許となっている。
●東京工業大学
Number(Issue)4,217,172( August 12, 1980 )
Title:Coolant system and cooling method utilizing two-phase flow for
nuclear fusion reactor 核融合炉の冷却システムに関するもののようだ。
Number(Issue):5,236,864( August 17, 1993 )
Title:Method of manufacturing a surface-emitting type semiconductor
laser device.面発行半導体レーザーに関する特許で、SANYOなどとの共有特許。
その他、X線露光用のマスクに関する特許もある。
●広島大学
Number(Issue):5,889,424( March 30, 1999 )
Title:Pulse width modulation operation circuit
パルス変調回路技術に関するものがある。
●東北大学
Number(Issue):5,923,779( July 13, 1999 )
Title:Computing circuit having an instantaneous recognition function and
instantaneous recognition method.
タイトル:瞬間的な認識機能および瞬間的な認識方法を有するコンピューティング回路
The present invention has as an object thereof to provide an intelligent
electronical system which conducts the real-time recognition of real
world data and makes decisions with respect to the data;
がある。
●京都大学
多孔性アルミニウム酸化膜に関連した特許が複数ある。
次に、産学連携に注目して、いくつかの民間企業がどういう大学と共有特許を持っているかということを見ていきたい。
フマキラーが広島大学とアレルゲンの精製やDNAに関する特許を共有している。
富士通が名古屋大学と波長多重化光源についての特許を共有している。
豊田合成と名古屋大学とのGaN関係の共有特許が目を引く。製法、装置、発光素子に関するものなどいくつかある。
次は、スタンフォード大学
約1100件の特許がある。
特許からみた発明人口は約1300人。筆頭発明人口は約600人。
まず、筆頭米国分類の主分類から、どのような特許があるのかをおおまかに把握する。筆頭米国分類集計をソートして件数の多いものをピックアップ。
米国分類435:171件 生化学
米国分類359:61件 光通信部品類
米国分類385:61件 光導波路
米国分類324:59件 電気:計測テスト
米国分類514:56件 薬
米国分類356:54件 光学:計測、テスト
となる。
光関係が目立っているようだ、中身をみると、
●光ファイバ増幅器、カプラ
●ホログラフィック記憶
●光変調器
●光MEMS関連
という具合に、光通信関係が多い。
人(先生)に注目してみると、
発明者別集計から件数の多い人を抽出した。
Shaw;HerbertJ. 68 patents
Digonnet;MichelJ.F. 40
Byer;RobertL. 38
Kino;GordonS. 38
Quate;CalvinF. 28
Kim;ByoungY. 27
Zare;RichardN. 26
Pauly;JohnM. 25
Fejer;MartinM. 23
Crabtree;GeraldR. 20
この中の何人かの特許を紹介する。
●Shaw;HerbertJ.
4,493,528 Fiber optic directional coupler.
4,410,275 Fiber optic rotation sensor.
4,556,279 Passive fiber optic multiplexer.
4,469,397 Fiber optic resonator.
4,530,097 Brillouin ring laser
4,676,585 Continuously variable fiber optic delay line.
4,554,510 Switching fiber optic amplifier.
4,652,079 High speed pulse train generator.
4,938,556 Superfluorescent broadband fiber laser source.
4,828,350 Fiber optic mode selector.
4,952,059 Reentrant fiber raman gyroscope.
5,106,193 Optical waveguide amplifier source gyroscope.
5,537,671 Technique of reducing the Kerr effect and extending the dynamic
range in a brillouin fiber optic gyroscope.
という具合に、光ファイバを中心とした多くの光通信関係の発明者だ。
●Digonnet;MichelJ.F.
この方は先のShaw先生と同じグループだったようだ。
●Byer;RobertL.
4,213,060 Tunable infrared source employing Raman mixing.
4,555,786 High power solid state laser.
4,701,928 Diode laser pumped co-doped laser.
4,731,787 Monolithic phasematched laser harmonic generator.
4,902,127 Eye-safe coherent laser radar.
4,951,294 Diode pumped modelocked solid state laser
5,227,911 Monolithic total internal reflection optical resonator.
5,800,767 Electric field domain patterning.
6,108,121 Micromachined high reflectance deformable mirror.
などという具合に、(固体)レーザー関係が多い。
●Kino;GordonS
4,781,425 Fiber optic apparatus and method for spectrum analysis and filtering.
Filed:February 18, 1966 Issue:November 1, 1988
と20年かけて成立した特許だ。
4,503,708 Reflection acoustic microscope for precision differential phase imaging.
4,627,730 Optical scanning microscope.
4,683,750 Thermal acoustic probe.
4,872,738 Acousto-optic fiber-optic frequency shifter using periodic contact with a surface acoustic wave
5,022,743 Scanning confocal optical microscope
5,073,018 Correlation microscope
5,121,256 Lithography system employing a solid immersion lens.
5,907,425 Miniature scanning confocal microscope.
5,982,716 Magneto-optic recording system employing near field optics.
6,075,639 Micromachined scanning torsion mirror and method.
6,172,789 Light scanning device and confocal optical device using the same.
6,477,298 Collection mode lens system
という具合に、光に関連した非常に幅広い技術開発をされているようだ。
●Crabtree;GeraldR.
件数は20件程度と少ないが、非常に特徴的な権利取得をされている。
以下の特許は技術起源が1993年で、同一特許出願を分割継続を行って育てているものと思われる。
5,830,462 Regulated transcription of targeted genes and other biological events.
同一名称で
5,869,337、5,871,753、6,011,018、6,046,047、6,063,625、6,140,120、6,165,787
などの特許がある。遺伝子治療の薬に関係していると思われる。
さらに
5,837,840 NF-AT polypeptides and polynucleotides.について
6,096,515、6,171,781、6,312,899、6,388,052と派生している。
こちらは、「ポリペプチドをコード化」に関係する特許で、
「トランスジェニック人間以外の動物を生産する方法に提供する。」とのことで、
いわゆるクローン技術に関係するものと思われる。
次は、MITの場合。
約2000件の特許がある。
まず、権利者別集計を見てみた。
当初、企業との共同特許がバンバンあるのかと思っていだが、あまり目立たず、MITの単独特許が多いようだ。
医療機関との共有特許もある。
Children's Medical Center Corporationとの例を上げると
Number(Issue):6,095,148( August 1, 2000 )
Title:Neuronal stimulation using electrically conducting polymers
abstractには
In one embodiment, electrically conducting biocompatible polymers may
be used alone or in combination with a polymeric support for in vitro
nerve cell regeneration, or in vivo to aid in healing nervous tissue
defects.とあり、導電性のあるバイオコンパティブルポリマーを用いることによって、神経細胞の再生ができるという特許のようだ。
筆頭米国分類をみるともっとも多いのは435番で、DNA、たんぱく質関連の特許が多いようだ。
半導体関連を見ていく。
メモリ365関連を見ると、
Three-transistor content addressable memory. や
Circuit technique for logic integrated DRAM with SIMD architecture and a
method for controlling low-power, high-speed and highly reliable
operation.がある。こちらの方はNECとの共有特許。
続いて、半導体製造プロセス関連438を見る。
Nanoparticle-based electrical, chemical, and mechanical structures and
methods of making same.が目を引く。パターン形成がプリントするように
できる特許と思われる。
超伝導関連505も目を引く。酸化物系の超伝導物質が多いようだ。
発明者別集計を見ていく。
発明人口は1980年以降、約2500人。
特許件数が100を超える人にLanger;RobertS.氏がいる。バイオ関連特許が多いようだ。
感想:
MITの場合、MIT名義の米国特許が約2000件あった。
日本の国立大学の場合、主要大学の米国特許保有数を合計してもその10分の1程度だ。さらにクレーム数解析の結果を見るとMITの場合、クレーム数が50以上のものが多数存在するのに対して日本の場合、ほんの数件だ。すなわちクレーム数ベースで比較するとその差はさらに大きくなると思われる。米国特許であるという点を考慮しても特許件数が少ないと言わざる負えない。
日本の大学の場合、大学の先生のアイデアは企業から出願され、大学の先生は発明者に留まるという話を良く耳にする。MITの勢いを見ていると日本の大学が「それでいいわけがない」と強く感じる。
特に、特許に対する感性や態度は、ほとんど、その組織の文化と言ってもよい。
なかなか、その流れは変わらない。
そこで、冒頭の提案となる。
TLOが主体となって、開発経験のある派遣技術者をバックエンドともども使って、技術や製品のプロトタイプまでを作って、周辺特許を押さえる。
TLOにそういう機能を持たせる。今、世の中はピンチだがチャンスとも言える。
大きな変化は苦難の時代にこそ生まれる。
「科学技術立国日本」が幻に終わらないことを切に願う。
ブログサイトにも載せました。
ポータルサイトもよろしくです。
門
政府はどう思っているのでしょうか?
アメリカには特許でビジネスしていくシステムも日本より整備されているような気もします。
それゆえ特許を大事にするのではないでしょうか。
派遣の人のバックエンドは、派遣会社との契約で持ち出せないようになっているのでは・・・?
補足します。
開発に来ている派遣の人で、派遣元のバックエンドのエンジニアから支援を受けられるのは、たいていの場合は、特定派遣のように思えます。
すなわち、派遣エンジニアは派遣元企業の正社員です。派遣切を派遣先の大企業が行うと、これらの派遣社員の人は、派遣元の企業に戻ります。
そこで、仕事が見つからないと、派遣元企業の内部でのリストラにさらされます。そこで、TLOが元の派遣先の大企業に代わって、派遣元の企業に対して派遣を依頼すればどうだろうかという案です。派遣社員を派遣元から引く抜くわけではありません。従って、従来どおり、派遣社員の人たちは、引き続き派遣元のベテランエンジニアからバックエンドとしてのサポートを得ることができます。
ですので、契約的な問題はありません。
通常の派遣先の変更にあたります。
また、TLOが期待するべきは、開発の一般的なノウハウでこれが、TLOにないのではと思っています。
場合によっては、TLOに退職された団塊エンジニアの人たちにお目付け役として来てもらうのもいいかと思っています。
日米大学の特許件数の差は、当然、把握しているはずです。特に、大学の独立行政法人化直前にかけこみで大学教授になられた、元大企業のエンジニアの方々はご存知です。
まーー。触れられたくない話題だとは思います。
時間がない。予算がない。など理由は色々とあると思いますが、もっとも大きいのはマインドであると思っています。