特許権は、発明を公開することで得られる権利だ。
公開と言っても無償とは限らないのは当然だ。
さて、
特許明細書にも、権利の部分と、公開=説明の部分がある。
権利の部分は当然ながら、請求項の部分だ。
公開の部分は「発明の詳細な説明」に記載されている。
権利は、公開の対価とも言える。公開のない権利は特許制度の趣旨に反する。
これを明細書作成の面からみると、クレームとそのサポートという言葉に行き着く。
こういう権利が欲しいと主張している請求項(クレーム)の説明は、明細書中に記載されていなければならないのだ。
ぽっと、請求項だけが存在している特許明細書は許されない。請求項の内容に相当する部分を明細書の詳細な説明に記載する必要がある。請求項を構成する要素が詳細な説明でなされる具体例のどれに当たるかを明示する部分が必要なのだ。
特許明細書を作成する際には、詳細な説明にあたる部分を発明者であるエンジニアが素案を作成して、
さらに弁理士や特許担当者と議論して、こういう権利が欲しいという話になる。
一般に、「発明発掘」と言われるフェーズだ。
そのときの議論、インタビューでの主題は、こういう権利が欲しい(クレーム)と、その説明はどこか(サポート)ということが多い。
しばらくして、明細書ができてきて発明者のチェックに回ってくると、分かりにくいクレームをコピーペーストしたような、ぎこちない表現が、突然、明細書の中に現れて発明者はとまどうことがある。そのとまどう部分が、たいていの場合、「サポート」の部分だ。念のために、できるだけクレームに近い表現になっているために、「分かりずらい」のだ。
ただ、その直接「サポート」の部分だけでは審査官を説得できない。特許明細書は結局のところ、発明者から審査官へのラブレターなのだ。(とは言っても、「愛している」とか書いても審査で有利になるとは思えないが。。。)
ラブレターという表現が不適切なら、審査官に対するプレゼン資料とその原稿と思えばいい。
審査官を説得するのだ。書き出しはそろりと始めて、共通の基盤を作る。そして「発明物語」を語れればなお良い。
と言っても、審査官は忙しい。序論は、ほどほどに。そして核心の発明から、一気にその応用や未来への展開までを語る。
そうやって、「(何か?)特許をあげたいなー」と思っているところで、初めて、特許特有の議論になる。
そのときに聞かれるのも、「このクレームのサポートはどこですか?」という点だ。
「権利は公開の対価」の原則が確認されるわけだ。
なお、明細書の文体だが、昔は、特許特有の小難しい表現が好まれた。
だが、発明者が、審査官や、後にその明細書を読むであろう他のエンジニアに語りかける、詳細な説明の部分はできるだけ分かりやすい表現を使うべきだと思う。せめて論文程度の表現で済ませるべきだ。
ところが、弁理士の先生方には、失礼ながら、「特許語」に翻訳されることを必須と考える人が時々おられる。
この対応にも困ったものだ。時には、特許担当者も交えて、激論することも必要だ。
ちなみにそういう「特許語」を駆使される先生に限って、こじんまりとした、成立しやすそうなクレームばかりにしてしまうことが多い。クレームが成立すれば成功報酬がもらえるとは言え、後々のことを考えると発明者は安易に妥協してはいけない。
とは言え、成立しない請求項ばかりでは、会社としても困る。
妥協点が、「チャレンジクレーム」「だめもとクレーム」という手だ。
多項制をフルに活用して、発明者の思いを込めたクレームを作る。このクレームが成立すれば、「俺は大金持ちだ」と思えるようなものでもいい。そこまで行かなくても、「特許報奨金で車が買えるかな?」と思える程度のものがいい。
お金ではなくて、「俺の発明を世界中の人が使う」。そういう思いでもいい。
重要なことは、そのクレームは、「チャレンジクレーム」「だめもとクレーム」であることを弁理士の先生に伝えて明細書に入れてもらうことだ。それを特許担当者にも伝える。そうすれば、失敗しても弁理士の先生の「打率」に響かない。
発明者は夢を追い、特許担当者、弁理士の先生は実利を狙う。いい組み合わせだと思う。
ただ、「チャレンジクレーム」「だめもとクレーム」と言っても、ただ単にだだっ広く、短いクレームは成立せず、失点ばかりになる。 それでは、悲しい。
構成要素を増やしていって、一見、限定しているように見えるが、実際の製品を開発する場合は、全く限定にならないというような手練手管は多々ある。限定が多いクレームほど、成立しやすい。そういうアドバイスを的確にしてくれる弁理士の先生や特許担当者と巡りあうことができれば、その発明者は幸せだ。
なお、蛇足になるが、日本特許の場合は面接審査に発明者も同行していくことをお勧めする。(ここを参照のこと)
審査官が自分と同年代であることにまずびっくりするだろう。そういう若い人に語りかけるのが明細書だ。
分かりやすく書いて当然だと、そのときに感じるだろう。
何よりも相手の目を見て説得ができる。発明者の目の奥にある未来を、同じ時代を生きる審査官に伝える唯一の機会だ。
(ただし、あまりなれなれしくすると間に入った特許担当者や弁理士の先生が後々、困るのでその点はご注意。
「二度と発明者を面接審査に連れて行かない。」とならぬように。)
門 伝也
ブログサイトにも載せました。