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 さて、前回のエントリーでは特許成立時の譲受人名と特許番号からアップルがITC特許群と法廷特許群を分けた理由を考察した。
 ITC提訴という最初の矢を速攻で放ち、次に、2の矢である「裁判」をちらつかせる。
というのがアップルの作戦だ。

 さて、今回のエントリーでは米国特許分類に注目して、ITC特許群と法廷特許群の特徴を調べてみよう。

 米国特許分類には主分類と副分類がある。このうち、大雑把な話だが主分類の番号が若いほど、古い分類であり、
番号が大きいほど新しい分類であると考えてもよい。新しい技術が古い主分類の中で副分類として成長すると、
そこで新たに大きな主部類が割り当てられるというイメージだ。
 例えば、
http://www.uspto.gov/web/patents/classification/selectbynum.htm
のページで002をクリックすると、
Class 2 APPARELと出てくる。
さらに、このページから977がNANOTECHNOLOGYであることも分かる。
ナノテクノロジーなんて言葉は、20年前にはあったかなかったか?
あったとしても、一般的ではなかっただろう。

 この観点から、ITC特許群と法廷特許群を眺めてみると面白いことが分かる。
ITC特許群に現れる主分類は、
702、704、707、709、710,713、714となる。
これに対して法廷特許群の主分類は、
250,340,345,348,370,375、381、713、715となっている。
米国特許分類で700番台は、デジタル系だ。これは、狭義のIT技術をイメージすればだいたいあっている。

 ITC特許群は、新しい主分類の中に集まっている。
また、前回述べたように、その技術起源は古い。
これは、まさに、「パイオニアワーク」を象徴しているのではないだろうか?
新しい中での「古い」なのだ。

 法廷特許群を見てみると、実は10件中、5件が米国特許分類700番台にもいる。
その内、4件の譲受人はAPPLEだ。特許の成立年は、2008年が2件、2009年が1件。
さらに、2010年、今年になって成立したものが1件含まれている。
とてもHOTな特許達だ。
 その中の2010年成立特許についてさらに詳しく見てみよう。
特許番号:7657849
特許の題名:Unlocking a device by performing gestures on an unlock image.

題名の機械翻訳:実行することによって、デバイスを解錠することは、アンロック像に身振り
をする。

何か、ピンと来ないかだろうか?

 筆者は、今年の初めに携帯をiPhoneに代えた。
その時、お店で戸惑ったのが、ロックの解除だった。
それまでの携帯にはロックの専用ボタンがあって、それを押して、ロック、アンロックを行っていた。ロックの解除だと思って右上のボタンを押すと、見慣れぬバーのような、表示が現れた。
「え。。。」と言っているとお店の人が、「右にスライドしてください。」とすかさずアドバイスをくれた。
タッチしたまま、右にずりずり。「ホー」と筆者は関心してしまった。

 まさに、この特許ではあるまいか?
権利はクレームに宿る。
請求項1を見てみると。
===特許7657849のクレームから引用===日本語は機械翻訳のため参考のみ==
What is claimed is: 【特許請求の範囲】
1. 【請求項1】
A method of controlling an electronic device with a
touch-sensitive display,
接触検出ディスプレイを有する電子デバイスを制御する手段、

The above comprises the following: 上記は、以下を含む:
detecting contact with the touch-sensitive display while
the device is in a user-interface lock state;
デバイスがユーザー- インターフェース・ロック状態において、
ある間、接触検出ディスプレイを有する接点を検出すること、

moving an unlock image along a predefined displayed path on
the touch-sensitive display in accordance with the contact,
接点に従って接触検出ディスプレイ上の定義済み表示されたパス
に沿ってアンロック像を動かすこと、

wherein そこにおいて、
the unlock image is a graphical, アンロック像は、あるグラフィック、
interactive user-interface object with which a user
interacts in order to unlock the device;
ユーザーがデバイスを解錠するために相互に作用するインタラク
ティブのユーザーインターフェース・オブジェクト、
transitioning the device to a user-interface unlock state
if the detected contact corresponds to a predefined
gesture;
検出接点が定義済み身ぶりと一致する場合、ユーザー- インター
フェース・アンロック状態にデバイスをtransitioning すること、
and maintaining the device in the user-interface lock state
if the detected contact does not correspond to the
predefined gesture.
そして、検出接点が定義済み身ぶりと一致しない場合、ユーザー
- インターフェース・ロック状態のデバイスを維持すること。
===引用終了===

となっていた。

最後に、図面をみると、代表図にまさにそのまんまの図面があった。

 筆者は、iPhoneを購入した時に、
「これから、タッチパネルの場合は、ロックの解除はこうなるのかー」
と素直に受け取ってしまった。
 しかし、それは特許技術なのであった。

 新しく産まれた特許は、実は、か弱い。りんごのエキスを吸いながら成長しようとしていくだろうが、死んでしまう可能性も高い。
849特許君、力強く生きろ。



門伝也(もんでんや)

なお、バックエンドサイトもご覧ください。
こちらの方に情報の集約、見える化を行って行く予定です。

拙著:PDF文庫はこちら。


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2010.03.24 Wed l りんご l コメント (0) トラックバック (0) l top

 アップルがHTCを「訴えた」件、ニュースやブログサイトでも話題だ。
例えば
「アップル、iPhone関連特許侵害でHTCを訴える」
http://japanese.engadget.com/2010/03/02/iphone-htc/

同URLから引用---------------------------------
「携帯電話界隈での裁判沙汰といえば近頃はノキアとアップルの訴訟合戦が話題ですが、
今度はアップルがHTCを訴えました。iPhoneのユーザインタフェース、アーキテクチャ、ハードウェアに関連する
20の特許を侵害したというのがアップルの主張です。訴状はデラウェア州、および米国際貿易委員会(ITC)に提出済。」
--------------------------------------------
とのことだ。
どういう特許でどういう具合に訴えたのか興味のあるところだ。
幸い、上記の記事には訴状へのリンクが貼ってある。
それを元に特許明細書を入手して解析を試みた。

 リンク先の資料によるとITCへの提訴の際に使われた米国特許は、下記の10件だ。
5481721、5519867、5566337、5929852、5946647、5969705、6275983、6343263、5915131、RE39486

 他方、裁判所に持ち込まれた特許群は下記の10件だ。
7362331、7479949、7657849、7469381、5920726、7633076、5848105、7383453、5455599、6424354

双方10件づつ、合計20件だ。

 これらを見てまず気づくのは、
●両者に重複がない。
●裁判に持ち込まれた方には、比較的最近成立した特許が多い。ということだ。
裁判特許群には、7、xxx、xxxで始る特許が6件含まれているのに対して、
ITC提訴分には1件も含まれていない。

 一般に古い特許ほど強い。特許をつぶそうとする場合は、
特許が出願された以前の先行文献を探し出して、それを元に反証を行う必要がある。
 パイオニアワーク的な特許をつぶそうとすると、担当者は苦労する。
探すのが困難なのだ。技術の概念も用語も統一されていない。
また、特許分類そのものが明確でないことも多い。

 また、ITCの結論の方が訴訟よりも早いという話をしばしば聞く。
そのため、最近では、まず、「ITC提訴」ということを行うようだ。
古い特許ばかりでITC提訴群を固めたのは、より早い結論を引き出すということを期待している現われではないだろうか?
ITC提訴という最初の矢を速攻で放ち、次に、2の矢である「裁判」をちらつかせる。
うまいやり方だ。りんごの本気度も感じる。

 ITC提訴特許群だけをピックアップしてみると、
技術起源としては1990年代前半に遡る。
もうすぐ、20年になろうとする昔だ。
 成立時の譲受人として、NeXTコンピュータの名前が見える。
その他、
Object Technology Licensing Corp
Taligent Inc
というちょっと耳慣れない企業が名前を連ねている。
検索してみると、比較的簡単にヒットして、いずれも、アップルとIBMの間に生まれたベンチャー企業だ。
まさに、新しいテクノロジーのゆりかごになった場だ。

 ITC提訴特許群は近い将来に特許期限が切れそうな特許で固めていると言うのは、
少し意地悪な見方ではあると思うが、正しい推定だろう。
 それに対して、法廷提訴特許群の内6件は、技術起源が今世紀に入ってからのものだ。
法廷で勝訴もしくは、勝訴に近い和解を勝ち取ることができれば、
今後、長い間、他社に対する睨みになるのだろう。

門伝也(もんでんや

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2010.03.16 Tue l りんご l コメント (0) トラックバック (0) l top