ご存知、アップルコンピュータ。
その米国特許調査から、リンゴの行方を探ってみようという企画だ。
調査対象は、特許権利者名としてappleを含む米国特許で、調査期間は1980年から2008年まで。対象となる特許は約2500件だ。
スティーブジョブズ:「Stay hungry, stay foolish.」
YouTubeで公演を聴いたが、感動を覚えた。そうありたいものだと思う。
まずは、その人から見ていこう。
Jobs;StevenPとかJobs;Steveで特許上は名前の記載がある。
セミコロンの前が家族名、後が個人名だ。ここでPはミドルネームの略称だ。
『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、PはPaul:ポールのようだ。
脱線するが、このミドル名が調査では意外とやっかいだ。記載があったり無かったり、略だったりそうでなかったり。あまりがっちりと、"Jobs;Steve"とフルネームで検索したりするとはずしてしまう。やわらかく、つぶさぬようにヒットさせるのがコツだ。
彼の場合は、Jobsと家族名で検索するのがよかろうかと思う。
さて、今回は特に人間関係に注目して技術の動向を調べよう。
ジョブズの薫陶を受けたエンジニアがその後どういうイノベーションを開いていったのか?
興味深いところだ。
特許明細書には、発明者の記載が必ずある。これがない特許はない。存在しない。
これは、発明の元となるアイデアは人間の脳みそにしか産まれないという確信の現れだ。
発明者欄に法人が記載されることはない。法人著作があるのに対して、法人発明がないのは特許制度の優れた点ではないかと思う。この点は、日米どちらの法律でも同じだ。
それに対して、特許権利者に法人はなれる。特許権を実効的に支配できる権利だ。
発明は、人の生の脳みそに産まれ、成長し、特許権となる。この特許権(特許を受ける権利)は譲渡が可能だ。権利者は発明者からそれを譲り受けた人や法人だ。そのため、米国特許では、権利者のことを、譲受人(assignee)という。ちなみに、譲り渡し人のことは、assignorだ。
筆者の「assignor と assignee」という記事にも記載があるのでご覧いただきたい。
特許明細書の発明者欄には、発明者が記載されている。
そこから技術的な人間関係を探ることができる。
最初に記載されている人は筆頭発明者と呼ばれる。通常、発明の主要な部分をなした人と解釈される。何らかの理由で発明者全員を記載できないときは、「筆頭発明者名、その他」と書かれることが多い。「筆頭」は名誉あるポジションなのだ。
いい発明を為すためには議論できる相手がいることが望ましい。強い特許権を確保するためには、色々な側面から議論することが必要だ。アイデアを膨らませ、権利としての抜けを減らす。そういう楽しい作業だ。
その議論を通じて、人は人に影響を与える。彼のインスピレーションはどこからくるのか? そんなことを考えたりもする。
さて、そろそろ本筋に戻ろう。
当該期間中にジョブズを発明者として含む特許は20件弱ある。
それらの特許に発明者として記載されているエンジニア達は、特許を出願する際に直接ジョブズと議論を戦わした「特許的ジョブズチルドレン」と考えていいだろう。多々、刺激を受けた恵まれた人たちだ。
この特許的ジョブズチルドレンは約40人いる。このエンジニア達が発明者として係わった特許(チルドレン特許群とする)について、特許数でTOP3のエンジニアをあげると、
1:M.D. 22 patents
2:A.B. 21 patents
3:K.S. 12 patents
となる。
なお、個々のエンジニア名はプライバシーの問題があるかもしれないので、ここではイニシャルだけとさせていただく。
さて、チルドレン特許群とはどういう特許なのだろうか?
いちいち特許の中身を見て分類しているととても大変なことになる。
そういう労力に応えるために米国特許分類というものがある。
これはひとつの特許に複数の分類コードを割り当てて、検索、調査が便利になるようにしているものだ。この分類のうち最初に割り当ててられているものを筆頭米国分類と言って、その特許がおおざっぱに何について記載されているものかを示すと考えられる。チルドレン特許群についてこの筆頭米国分類を調べて集計してみると、
715:DATA PROCESSING: PRESENTATION PROCESSING OF DOCUMENT, OPERATOR INTERFACE PROCESSING, AND SCREEN SAVER DISPLAY PROCESSING
:14件
361:ELECTRICITY: ELECTRICAL SYSTEMS AND DEVICES
:14件
345:COMPUTER GRAPHICS PROCESSING AND SELECTIVE VISUAL DISPLAY SYSTEMS
11件
がTOP3だ。上記はメインクラスと呼ばれる分類であって、それらはさらにサブクラスという分類によって分けられている。
上記の715のメインクラス中で最も多いのは、4件あって
715/723 For video segment editing or sequencing:
となっている。
これらの実際の特許の題名を見ると
User interface for presenting media informationと同じであって、
内容をみると、QuickTime関連のユーザーインターフェースに関する特許であるようだ。
さらに上記メインクラス361で最も多いのはサブクラス679.06となっている。
これは、
361/679.06 Display rotatable about plural axes:
となっている。
特許の題名はいずれも
Computer controlled display device.
となっている。
チルドレン特許群の主題は、アップルの真髄であるユーザーインターフェースであるようだ。まさに、ジョブズの知を引くエンジニア達だ。
<<続く>>
門 伝也(もん でんや)
ブログサイトにも載せました。