特許は成長する。分割、継続というステップを経て、より強く大きく、特許群となる。特許を「群れ」として把握することはとても重要だ。特許群として近い関係にある特許をまとめて見ることで把握が容易になる。効率があがる。得したような気分になる。膨大な特許件数にたじろがなくて済む。
さらに、特許を書く側、出願する立場の場合は、いい特許群をお手本として、特許対策を推進できる。
また、権利侵害交渉などで守る立場になった場合は、群として把握し、分析することで、対策も立てやすくなる。
今回は、「ジョブズ(特許的)チルドレン」による特許を群として解析していこうと思う。
手がかりは明細書にあるParentCaseTextと呼ばれる部分だ。そこにはその特許の由来が記載されている。いつ出願された特許を親として、分割したとか、その元の出願はさらにこれこれになったとか。そういったことが記載されている部分だ。そこを見て関連する特許を束ねていくことができる。そして束ねた特許を群として把握することで、より深い解析を行うことができる。
分割や継続出願を行うのには多くのリソースを要する。弁理士費用、対応するエンジニアの工数、さらにブラシアップのための議論をする時間。だが、多くのリソースを費やしてもなお強固にしたいアイデアがあるということだ。裏を返せば、リソースを費やした特許には自信がありかつ今後も重要であると当事者達が考えているということを示している。ParentCaseTextを解析する意義はそこにある。
その作業をやってみると、ふたつの群があぶり出される。
今日はそのうちのひとつであるUS6819550を含む11件の特許からなる特許群を見て行こう。(以降550特許群と呼ぶ。) そのうち3件の特許でジョブズが名誉ある筆頭発明者となっている。発明者の数、連名者数は意外と多くて9人から18人だ。群としての総クレーム数は約300。古いものでは2001年に出願(ファイル)されており、最近のものでは2006年に出願されている。技術起源はいずれも2001年に遡る一連の特許群だ。
まず、図面を見て驚いた。あのマックの横顔だ。丸いお椀を伏せたような本体。そこから斜め上方に延び、液晶パネルをしっかりとささえる支柱。そうか、このマックの為の特許なんだ。
この支柱のことを明細書では可動アセンブリ(moveable assembly)と呼んでいる。
この可動アセンブリ(支柱)が特許群の主題だ。
特許明細書に目を通し始めて違和感を感じた。細かなパーツの図面が多々ある。寸法をいれるだけで、そのまま試作に出せそうな図面達だ。普通、特許明細書では概念図というかポンチ絵的なものが多い。どうも違う。なぜ、そこまで厳格に図面を記載しているのだろうか? 色々と思いを巡らせたあげく、ある仮説に到達した。それは、
偽物対策のために、命であるデザインを特許で守ろうとしているのではないかという仮説だ。
だとすればこれだけの労力をかけて特許群を整備していることに合点が行く。
デザインを守るためには、日本では意匠制度を利用するのが普通だ。米国ではデザイン特許という制度がある。だがこの特許群は通常の技術的な枠組みでの特許だ。
意匠制度では似ているかどうかで侵害かどうかが判断される。ところがこの「似ている」という判断は主観的でやっかいだ。国によっては判断基準に大きく隔たりがありそうだ。「似ているかどうか」ではなくデザインを実現するために不可欠な要素を抽出してそれを特許で押さえる。そんな戦略ではないだろうか?
振り返ってみると、昔、i-MACだったか、一体型のマックがあった。それが出てすぐに、そっくりさんのWindowsマシンがぞろぞろと出てきた記憶がある。その経験から来る戦略だろうか?
内容を確認していこう。
この図に示している球体のつながりが可動アセンブリの肝となる部分だ。この球体の内部に配線を通すことで見栄えがよくなる。デザインへのインパクトが大きい。
日本の特許出願ではこの部分だけを出願することを推奨されるに違いない。権利の取得が容易で、発明の単一性の観点からも有利だ。なのにあえてコンピュータシステム全体として特許を取得しようとしている。この図に至ってはリンゴ印までついている。コンピュータ全体のデザインとして保護したいという想いの表れだろう。
<<続く>>
門 伝也 (もん でんや)
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