劇的なS社との再会だった。筆者は2002年7月に「注目ベンチャー紹介」という記事を書いた。S社という創業者S氏の名前を冠された研究開発ベンチャーに関する記事だ。MEMSに関する米国特許調査を行った際に見つかった、特許的アクティビティのとても高い会社だった。特許をたどっていってみると、カメラメーカーからフィルムメーカーへと転職をし、それから1997年前後に自分の名前を社名にして起業。まさに、エンジニアとしては夢の経歴だ。当時は特許情報以外はWEB検索してもなんの情報もでてこない「謎」の企業だった。その企業名が今回の特許調査である無線LANの中で現れてきたのだ。ちなみに現在は、WEB検索をかけると日本語のWEBサイトまで見つかる。それによると、「500名の科学者、エンジニア、支援スタッフを雇用している」とのことだ。以前とは異なりとても多くの分野で活動しているようだ。
さて話をもどそう。
「りんごの行方」でも述べたが、特許を群として把握するのはとても有効な手段だ。特許群として近い関係にある特許をまとめて見ることで把握が容易になる。
今回は、802.11という文字列を含む米国特許約7000件から一気に特許群をあぶり出す。要素技術の話から応用特許まで、さてどういう群が現れるのか??とても楽しみだ。
先に述べたS社はその過程で明らかになったわけだ。
群れとして解析すると500あまりの群が見つかる。群の大きさを、構成する特許の数と定義すると、群の大きさが5以上のものは約70群存在する。この内、群の大きさが10以上のものが約20群ある。群の大きさは特許対策のために投入しているリソースの大きさを示していると推定できるため、この20群がとりあえず注目するべき特許群であろう。
それらの中から3つの特許群に注目しよう。
まずは、P6788293 だ。表記法としては、Pxxxxxだと特許xxxxxを含む特許とする。
この群の場合は、USP6788293を含む群れということだ。この群れの大きさ、すなわち構成する特許の数は18だ。先に述べたS社の特許群だ。S社の創業者であるS氏はこのうち、4件の特許で筆頭発明者となっている。それ以外の特許ではL..P.氏が筆頭発明者だ。
その特許がおおむね何について取られたものかを把握するためには、筆頭米国分類を見るのがよい。この特許群では、18件の特許のうち、7件の特許の筆頭分類が700/94となっている。
http://www.uspto.gov/web/patents/classification/
のページで分類の定義を見ると、
Digital audio data processing system:
となっている。この特許群はLAN接続を意識したオーディオ機器群に関するもののようだ。
次に注目したいのは、P7107055群だ。群れは18件の特許から構成されている。
総クレーム数は、300を超える。筆頭発明者は全ての特許で、G.M.氏となっている。
権利者(譲受人)はKineto Wireless, Inc. となっている。
Googleで検索すると、
http://www.mitsuiventures.com/investment/kinetowireless.html
のページがヒットした。
日本のベンチャーキャピタルである三井ベンチャーズも投資しているようだ。
そのページによると、
「キネト・ワイヤレス社は、ADSL等のBroadband回線を活用し、IP電話サービス同等(若しくはそれ以下)の低料金で、固定電話同等の品質を持つ音声・データ通信サービスを携帯電話事業者向けに提供するベンチャー企業です。同社製品を活用する事で、携帯電話事業者は、携帯電話Networkとシームレスに統合された安価な音声・データサービスを提供出来るようになると共に、DSL事業者にとっては、近年急速に普及しつつある、所謂IP電話サービス以上に魅力的となる「携帯電話サービスとうまく統合されたIP電話サービス」を提供する事が可能となり、自社DSLサービスをより魅力的なものにする事が可能となります。」
とのことだ。
そこから、このベンチャー企業へのリンクが貼られていて
http://www.kineto.com/
へ飛ぶ。
その企業への出資者のページを見ると、ベンチャーキャピタルに混ざって、NECやモトローラの名前まで見える。かなりの有望株と見受けられる。
3番目に注目したい特許群はP6901429だ。群れの大きさは16.総クレーム数は、800を超える。その中のひとつの特許ではクレーム数が188だ。ほとんどがサブクレームではあるがクレームチャートを作って解析するのは大変そうだ。発明者数はほとんどの特許で一人で、D氏だ。
興味深いのは譲受人だ。群れの中で、12の特許で譲受人がいない。すなわち、発明者がそのまま権利者だ。残りの4件のうち2件をNextWave Solutionsが、他の2件をRPX-NW Acquisitionが譲り受けている。 WEB検索をして見たが、同一名称の企業が多いためか、特定できていない。
筆頭米国分類は半数の特許で、709/203だ。
これは、米国特許庁で定義を調べると
Client/server:
This subclass is indented under subclass 201. Subject matter wherein at least one local computer provides a user interface and performs local data processing to interact with at least one remote computer which implements data processing (e.g., data management, data sharing) within a generic time-sharing environment in response to the local computer to transfer data between the local computer and the remote computer.
と出てくる。
個人発明家だろうか。興味がわいてくる。個人で特許を保有して、大企業にライセンスする。
ひとつの憧れ的生き方だ。
<<続く>>
門 伝也 (もん でんや)
ブログサイトにも載せました。